デジタル画像の品質基準はどうすべきか?~高品質なデジタル化への近道~

従来の課題点

デジタル化プロジェクトの対象には、書籍や雑誌、手書き文書、新聞、地図、写真、ポスターや広告、アートワーク、公文書、設計図や図面など様々な原稿が含まれます。これらのデジタル化(ファイリングスキャン)は、主に保存性の向上やアクセスの利便性を目的としています。

しかしながら、特に貴重な原稿のデジタル化プロジェクトを成功させるためには、品質管理(アーカイブスキャン)が非常に重要となります。

例えば、歴史的な政府文書や公式記録は、後世の研究や保存が確実に行われるよう、正確な色再現や細部の明瞭さが求められます。また、絵画、イラスト、版画などのアート作品は、芸術的価値を損なわないよう、オリジナルの質感や色彩を忠実に再現する必要があります。さらに、稀覯本、古地図、歴史的な写真などの貴重な原稿も、その文化的価値を保持するために高い品質でのデジタル化が不可欠です。

しかし、従来の品質基準では、解像度やサイズなどの仕様は具体的な数値で設定される一方で、上記のように「正確な色再現」「細部の明瞭さ」「忠実に再現」「高い品質で」といった部分には抽象的な表現や曖昧な基準が多く使われていました。このため、品質の明確な評価や一貫した品質の保証が難しく、作業の精度やコミュニケーションのスムーズさに課題がありました。

Traditional Representations of Digital Image Quality

標準化された評価基準の登場

この課題を解決するため、国際標準化機構(ISO)によって制定されたデジタル化画像の品質に関する国際規格「ISO 19264-1」や、アメリカ合衆国政府機関によって策定された画像の品質評価に関する具体的な指針「FADGI(Federal Agencies Digital Guidelines Initiative)」といった標準化された評価基準が登場しました。これらの規格やガイドラインは、品質を客観的に評価するための基準を数値化して提供しているため、品質の明確化が可能であり、それにより品質要求の伝達精度も向上し、デジタル化プロジェクトの成功を支える重要な要素となっています。

これらの規格やガイドラインでは、以下の具体的な評価基準を設定しています:

  • 解像度: 画像の詳細度を示す指標で、単に各インチ内に構成されるピクセル数だけでなく、実際にどれだけ細部を明瞭に再現できているかを数値で評価します。
  • スケール精度: 画像が元の物理的なオブジェクトのサイズや寸法と、どれだけ一致しているかを数値で評価します。
  • トーンレスポンス: 画像の明るさやコントラスト、明暗の範囲をどれだけ正確に再現できているか、グレースケールの階調再現性「L*」を数値で評価します。
  • 色の正確性: 画像が原物の色をどれだけ正確に再現できているか、ホワイトバランス「ΔE(a*b*)」や色の誤差「ΔE 2000」を測定し評価します。
  • 色収差: 画像のエッジ部分で、色ずれや色のぼけが最小限に抑えられているかを数値で評価します。
  • 10% / 50% SFR: 「10% SFR」は低い空間周波数に対して画像がどれだけ正確に再現できているか(細部のシャープネス)、「50% SFR」は高い空間周波数に対しての再現性(全体的なシャープネス)を数値で評価します。過度なシャープネスは品質を低下させるため、適度なレベルであるかも評価します。
  • ノイズ: 画像に望ましくないランダムなピクセルの変動や不要な信号が含まれていないか(不必要な粒子や、ざらつきがないか)の程度を数値で評価します。
  • 歪み: 画像がどれだけ正確に、元の物理的な形状を再現しているかを数値で確認します。

ISO 19264-1とFADGIのアプローチには異なる点がありますが、どちらもデジタル化プロジェクトの品質向上に寄与しています。これらの規格やガイドラインに従うことでデジタル化の品質を数値化し、明確に伝達することが可能になります。結果として品質要求の伝達精度が向上し、作業の精度が高まり、一貫性のある高品質なデジタル画像の提供が実現する事でプロジェクトの成功に大きく貢献します。実際に、スミソニアン博物館やアメリカの公文書館(NARA)など、多くの著名な機関がこれらの規格やガイドラインを採用し、世界的にデジタル化のトレンドとして広まっています。これにより、デジタル化されたコンテンツの品質が保証され、保存とアクセスの信頼性が高まっています。

標準化された評価基準を採用しない場合のリスク

ISO 19264-1やFADGIのような標準化された評価基準を使用しない場合、デジタル画像の品質基準は様々な組織や個人によって異なる方法で設定されることがあります。一般的な問題点として以下のような点が挙げられます:

一貫性の欠如

品質基準が明確に定義されていない場合、デジタル画像の作成や管理における一貫性が欠ける可能性があります。異なる時期や異なる人が異なる基準で作業を行うことで、画像の品質にばらつきが生じる恐れがあります。

長期保存のリスク

品質基準が不十分または適切に定義されていない場合、デジタル画像の長期保存における信頼性や持続可能性が低下します。例えば、十分な実解像度が確保されていない画像は、将来的に必要な詳細や情報を提供できない可能性があります。

アクセス性の問題

品質基準が不十分な場合、画像の色再現性やダイナミックレンジの管理が不適切であるため、正確な情報や表現が保証されないことがあります。これは、研究者や一般の利用者が情報を正しく理解し、活用する際に支障をきたす可能性があります。

技術革新への対応の困難さ

品質基準が明確でない場合、新しいデジタル化技術やベストプラクティスへの迅速な対応が困難です。技術が進化するにつれて、品質基準の更新や変更が必要となる事がありますが、適切な基準がなければこれらの変更を実施することが難しくなります。

これらの問題点を避けるためには、国際的な規格や専門家によって推奨される標準化された評価基準を参照し、適切な基準を設定することが重要です。具体的な規格やガイドラインを用いることで、デジタル画像の品質管理を効果的に行い、持続可能な保存とアクセス性を確保することができます。

自動評価・解析ツールの有用性

これまで述べてきたように、ISO 19264-1やFADGIの評価基準はすべて数値化されており、これらの項目をPhotoshopなどのソフトウェアで一つ一つ手動で確認するのは非常に手間がかかります。また、評価項目によっては専用のツールが必要な場合もあります。

そこで、評価基準の全要素を効率的に判定できる総合的なチャートと、そのすべての要素を一度で自動的に解析して数値化するソフトウェアが役立ちます。さらに、それらの数値データをまとめFADGIのスター方式でランク付けし、レポートとして出力する機能も備えたソフトウェアを利用する事で、時間と労力を大幅に削減して正確な品質評価が実現できます。

Image quality analysis flow
FADGI Star Ranking System

まとめ

デジタル化の品質管理は、従来の曖昧な基準から脱却し、国際的な規格や標準ガイドラインを採用することで大幅に向上します。また、これらの評価基準を自動で評価・解析できるツールを活用することで、効率的かつ精度の高い品質管理が可能となり、デジタル化プロジェクトの成功に大きく貢献します。

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Solution for determining image quality